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​※ややネタバレを含みます。プレイ前の方はご注意ください。

600DL記念

レオ視点SS『秘密の味』 著・雪華


「我らが英雄、レオ・ヴァーンヴァレイ! 結婚、おめでとー!」
 こちらが恥ずかしくなるほど威勢の良い声が、酒場の端から端まで響く。苦笑して酒の入った器を掲げると、淵の部分がカンッという音を立ててぶつかりあった。
 落ちつかない気分で周囲を見回し、こちらを見ている者がいないか確認する。今夜は最高に可愛い俺の妻が隣にいるから、あまり注目されたくなかった。
 ただでさえ、最近の彼女は『覚醒者』として人気がある。俺が見張っていないと、邪な感情を持った男も寄ってくるのだ。それなのに当の彼女は、未だに好意に対して鈍く、日々俺をハラハラさせている。
(一緒に来いってうるさいから根負けしたが……やっぱり、連れてくるんじゃなかったな)
 溜息をついて杯を傾ける。先日の事件――わらわらと寄ってきた人たちに紛れて、彼女の尻を触った不埒な者がいたこと――を思いだすと、酒を一気飲みしたい気分になった。
(くそ。思いだしたら、また燃やしたくなってきた)
 あの時トーマスが消火していなければ、俺はあの貴族の全身を燃やしていただろう。ウィルからは小言を受けたが、むしろ髪だけで済ませてやったのだから、犯人には感謝してほしいくらいだ。
 ……という諸々を目の前の友人にも説明しているはずなのだが、事前のお願いが反映されている様子は微塵も見られない。
 俺はあえて、わかりやすい苦笑いをして言った。
「どうした、クライド。また笑いたくなる毒キノコでも食ったのか」
 クライドは魔術師養成所学校時代の同期で、第二魔術師団に属している。そこそこ良い家の出のはずなのだが、その行動は模範的とは言えず、昔は度々教官たちを渋面にしていた。模擬戦中に毒キノコを食べた上に、皆にも勧めて、味方陣営を恐怖の底に落としたのは有名な話だ。
 遠い目で昔を懐かしんだ俺を気にせず、クライドは「あっはっは」とますます陽気に笑った。
「さすがに、もうそこまでの冒険はしてねぇよ。あ、でもこの間、城の裏庭に生えてたキノコは食べたな」
「食べてるじゃねぇか」
「だってよ、神聖な勇者の城に生えてるキノコだぞ? 毒なわけがない。むしろ勇者の力をわけてもらえるかも……」
「はぁ、相変わらずだな。お前は勇者を神聖視しすぎだ」
「勇者がいてこそのプレートラントだろー」
「……まあ、そうだな」
 俺はある理由で、十代の頃から勇者が……あまり好きではない。勇者の血筋がこの国に必要だというのはわかっているが、解消できない複雑な思いがある。だから皆が勇者を崇める度に、俺は心をざわつかせてきた。クライドがウィルなみに人の心の機微を読むのがうまければ、今頃は不審がられていただろう。
 そういう意味で、人の顔色や空気を読まないクライドの明るさには、救われてきた。未だに付きあいが続いているのは、クライドが相手だと変に構えたりしなくていいからだろう。
 もっとも今は、それで悩まされているわけだが……。


「そういえば勇者といえばさー!」
 たぶん曖昧に話を流していたせいだろう。勇者好きのクライドが、同意を求めていっそう燃えあがる。
 俺が軽く相槌を打っていたら、机の下に置いていた手に、彼女がそっと触れてきた。
「大丈夫? レオ」
 こそりとした耳打ちに、思わず口元が緩む。
 俺の内心を知っている彼女としては、気が気ではないのだろう。まるで自分が傷つけられたかのように、瞳の奥を揺らしている。
(んな可愛い顔するなよ。また路地裏に引きこんじまうだろ)
 少し落ちこんでいた気分が、彼女を見ただけで急浮上する。
 下がった眉尻に今口づけたら、きっと目を瞠って、恥ずかしそうに俯くだろう。そうしたら無理やり視線をあわせ、ますます赤くなった耳を――と詳細に思い描いていたら、察しが良すぎる彼女が困ったふうに視線を逸らした。
 早くも赤くなった頬を見ていると、つい獲物を狙うように目を眇めてしまう。「今は身ごもらせるな」という厳命を受けているせいで全く繋がれていないから、なおさら欲望が高まった。
(はー……理性が切れそう)
 念願叶って愛する人と結婚できたのに、ずっとおあずけだなんて、どんな拷問かと問いたくなる。
 体の熱を吐きだすように息を吐き、彼女の汗ばんだ首筋を視線で辿った。
 すると彼女が羞恥心を紛らわすふうに、どうでもいい話題を口にした。
「こ、この牛乳……美味しいですね」
「はは、そうかー? レオの領地のやつのほうが美味いだろ」
 さりげなく引こうとした彼女の手を捕まえる。指と指を絡ませ、逃げられないように固定した。
「っ」
 彼女が衝撃を受けたように息を詰まらせ、俺は小さく首を傾げる。
 原因に気がついてからは、俺自身も衝撃を受けた。
 ……いつの間にか俺のアレは衣を押しあげるほどになっていて、意図せず彼女に触らせる格好になっていたのだ。
 彼女の顔が、かぁっと火をふきそうなほど赤くなる。耳まで染まっていた。
 それがまた可愛くて、俺は素知らぬ顔で手を握り直した。
 彼女の指先がアレに当たって、腰まわりに血が集まる。ぞくりとした感覚で漏れた息を、酒を飲む仕草で誤魔化した。
「レ、レオ……」
「ん?」
「あ、あの……えっと……」
「どうした?」
 満面の笑みで優しく問いかけると、彼女は口をもごもごとさせて黙りこんだ。
 やや変態臭いが、わざとではないのだから、事故だ。事故。
 そんなふうに胸中で言い訳をして、クライドに向き直った。
 話題はいつの間にか牛乳談義になっていて、クライドがこれまた空気を読まない下世話なことを言い放った。
「ははっ! でもさ、一番美味いのは旦那の白いアレだろ? なーんちゃって」
「お前……、今のはさすがに俺でも引くぞ。というか、こいつでそんな想像をするな」
「恐い顔すんなよ。学生時代は恋人と一緒にいても、余裕で聞き流してたじゃん?」
「は? な、なに言ってるんだ」
 昔の恋人関係云々は、あまり彼女に知られたくない。過去のどの恋人にも夢中になれなかったから、それが気まずかった。

 冷淡な人間だと思われるのが恐い……。
 しかし彼女は俺の気持ちを知らず、なぜか異様に食いついた。
「クライドさん。そのお話を、もっと詳しく」
「ちょ、ちょっと待て。そんなの聞く必要ないだろ」
「……聞かれたら、まずいことでもあるの?」
 彼女にしては珍しい睨むような目を向けられ「う」と言葉に詰まる。
 彼女を傷つけずに話題を変えるには、どうしたらいいのか……。
 悩んでいる内に、クライドの昔話は白熱していってしまった。

 ……そんな気まずい話題の後だから、部屋に戻ってからも二人の間には微妙な空気が流れていた。
 せっかく独身寮から家族寮に移れたのに、これでは気軽に抱き寄せることもできない。
 仕方なく、俺は読みかけの本を手にとり、寝台に腰かけた。その内、彼女から話しかけられるだろうと思ったのだ。
 だが一刻ほど待っても、彼女は難しい顔をしたままだった。
 ついに耐えきれなくなり、本を読んでいるふりをしながら声をかけた。
「なあ、湯あみしないのか?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと考えごとしてて……」
「……どんな?」
 本を横に置き、目で傍へと招く。
 彼女は少し迷ったように視線をさまよわせた後、決意を固めた顔で近づいてきた。
 まさかの離婚かと冷や汗が流れる。
 そうして、何を言われるのかと身構えていたら――
「私、髪を赤く染めようと思うの」
 と、謎の宣言をされた。
「え?」
「やっぱり、私には似あわないかな……」
「いや、似あわないってことはないと思うが……、今のままじゃ駄目なのか?」
 困惑して問うと、彼女が握りあわせた自身の手をもじもじとさせ始めた。
「だってクライドさんが、レオの過去の恋人は、赤毛の人が多かったって……」
「もしかして、嫉妬してくれたのか?」
 彼女を悩ませたいわけではないが、執着心を見せられると嬉しくなる。しかし声を弾ませて問うと、あっさり首を横に振られた。
「ううん。嫉妬はしてない」
「あ、そっか……」
 情けなくも、一瞬気落ちした顔をしそうになる。しかしすぐに我に返り、なんとか笑顔を浮かべた。
「じゃあ、どうして急に?」
「……」
「?」
 嫉妬していないというわりに、彼女は気まずそうだ。
(というより……申し訳ないって感じだな)
 こんな時、ウィルのように内心を読めない自分が不甲斐なくなる。
 俺こそ申し訳ない気持ちになり、硬く握られていた彼女の手をとった。
「悪い。俺、ウィルほど賢くないから、お前が何に悩んでいるのかわからないんだ。教えてくれないか」
 下から覗きこむようにすると、彼女の黒い瞳が僅かに潤む。
 慌てて手を引こうとしたら、掠れ気味の弱々しい声が言った。
「……私、たぶん欲張りになっているの」
「うん?」
「だから、レオが過去に付きあっていた方々の特徴とか、していたことを聞いて……私がそれを実践できたら、もっと……」
 途中まで言った彼女の口がまごつき、ぎゅっと眉根が寄る。
 急かしたい気持ちを抑えて手を撫でていると、彼女がおずおずと口を開いた。
「もっと……好きになってもらえるんじゃないかと、思って……」
「え」
 予想の斜め上の展開に、間の抜けた声が出た。

 だが彼女は、俺が呆れたのだと勘違いをしたようだった。
「ご、ごめんなさい。真似しただけで好きになってもらえるなんて、傲慢な考えだったよね」
「はぁ。結婚しても、そんな調子なのか……」
「……怒った?」
 涙目で俯く彼女を、不意打ちで引き寄せる。前のめりになった彼女の腰に腕を回し、膝の上に座らせた。
「わっ! レ、レオ……?」
「ああ、怒ってる。というか悲しい。俺の愛が伝わってなかったんだな」
「え!? 伝わってるよ?」
「じゃあ、誰かの真似なんかするな。お前だからこそ、俺は結婚したくなるほど惚れたんだ。過去に付きあった女には悪いが……お前を愛するようになってからは、もう顔も思いだせないくらいなんだぞ」
「そうなの……?」
「赤毛だったっていうのも忘れてた」
「意外……。レオは一人ひとりのこと、しっかり憶えてるほうだと思ってた」
「はは、冷たい人間だよな。呆れただろ?」
 恐れていた展開に、心臓が竦みあがる。
 気まずさで俯くと、じっと見つめられている気配があって……、それから小さな音をたてて額に口づけられた。
「!」
 驚いて顔をあげれば、彼女のはにかんだような笑みがあった。
「喜んじゃいけないってわかってるんだけど……、嬉しい」
「呆れてないのか?」
「うん。あ、でもどういう方向で頑張ればいいのか、またわからなくなっちゃったから……少し困ってはいるかも」
「さっきも言ったが、なんで頑張る必要があるんだよ。毎日愛してるって伝えてるだろ」
「だ、だからだよ」
 彼女が真っ赤になった自身の顔を、両手で覆う。ぷるぷる震えているところが可愛い……と言ったら逃げられそうなので、黙って見守っていた。
「レオが、毎日甘い言葉を囁くから……私、落ちつかないの」
「もしかして、嫌だったとか?」
「ううん、そうじゃなくて……。自分に自信がないから、こんなに愛してもらっていいのかなって、逆にちょっと不安になるというか……」
 悩みの内容が不穏なものではないとわかって、ほっと息をつく。安心したら彼女の温もりをもっと感じたくなり、近くにある耳を舐め始めた。
「あっ、レオ、いま説明してる途中……っ」
「うんうん、それで?」
 舌先で耳殻をなぞったり、耳朶を口にふくんだりしながら続きを促した。
 びくびくと彼女が肩を跳ねさせ、告白する声も震える。
「んっ、ん……、だから……、んっ、もっと好きになってもらえる点を作らなきゃって、勝手に焦っちゃったんだと思う……」
「じゃ、もう解決したな?」
「ん、解決、したのかな……」
「してるだろ。お前が相手だから、耳舐めただけで……こんなになるんだ」
 腰を抱き直し、服越しに隆起したものを押しつける。
 敏感なところでその感触を受け止めた彼女は、頬を上気させ、抱かれている最中のような顔をした。
「えっと……、するの?」
 世界一愛している妻が、欲しているようなとろけた顔と声で聞いてきたら、男なら誰だって我慢できなくなる。……と思う。
「死ぬほどしたい。けど、我慢する。国王陛下の命令だからな」
 このまま押し倒したい衝動を、ぎゅっと抱きしめることで堪える。
 彼女は苦しそうにしながらも、幸せそうに笑った。
「ふふ、じゃあ私も我慢する」
「……つまり、お前も死ぬほどしたいと?」
「う。それは……秘密」
「へぇ、夫に隠しごとするのか。いけない妻だなぁ」
 ふざけた調子で言いながら、彼女の体をそっと寝台に横たえる。
「少し、お仕置きしないとな」
「し、しないんだよね?」
「入れなきゃいいんだろ?」
 正直なところ、入れたくてたまらない。だが、これも後の楽しみのためだと思えば……ぎりぎり、乗り越えられなくもない。
 いっそう赤くなった首筋をべろりと舐めあげれば、心をとかす甘い声が聞こえた。
「あっ! んん……っ、まって、レオ。まだ湯あみ、してない」
「しなくていい。お前の『秘密』の味、もっと味わわせろよ……」

 その夜は、彼女の耳や首をずっと舐めていた。
 そうしたら翌日にすれ違ったクライドに「よ。どんだけ精神的な負荷でハゲた?」と聞かれ、俺は「意外とコイツ策士なのでは……」と恐れおののいた。

<了>

​※ウィリアムのバッドエンドのネタバレを含みます。プレイ前の方はご注意ください

※屍姦要素有り

800DL記念

ウィリアム視点SS

『兄の予言』 著・雪華

 夜の帳を細くしなやかな糸で引き寄せるような弦楽器の音色。繊細かつ華やかな管楽器は、星々のささやきを思わせる。そこにかしましい人々の笑い声が混ざれば、遠くからでも舞踏会の雰囲気を感じられた。
 蝋燭の灯りのみが照らす薄暗い室内で、ウィリアムはワルツの音楽にあわせるように愛しい彼女を抱きしめ、律動を刻む。

 最高級の瀟洒な長椅子がきしきしと細かい音を立て、耳についた。
「はぁ、はぁ、部屋に帰るまで待てなくて、すまないね」
 ウィリアムの願いのままに濡れる膣内は、それでいいのだと肯定するように、全てを受け入れる。怒張するものに媚肉を絡ませ、淫らに包みこんでいた。
「っ、あぁ、いいよ。とても、いい。もっと私を求めて、強く包んで」
 乞えば、その通りに力がこめられる。根本から絞りあげる動きにたまらず、形の良い唇からは呻きに似た声が漏れた。
「ぐっ、ぅ……っ、はぁ、今夜も君は、素直で可愛い……。私の願いを叶えてくれたご褒美に、君の一番好きな、ここ……ごりごりしてあげる」
 両脚を肩にかつぎ、華奢な体を二つ折りにするようにして真上から熱杭を突きたてる。そして刺激に応じておりてきた子宮口を、ごちゅごちゅと乱暴なまでの勢いでせめ立てた。
 彼女の腰が小刻みに震え、突かれ続けた最奥が柔らかくなる。
 硬い先端はより奥に向けてめり込むようになり、自然と亀頭と接する面が広くなった。
「あっ、くっ……ぅ、こんなに求めてもらえて、嬉しい。このままとけあって、一つになりたい……」
 柔らかく、それでいて弾力のある子宮口を押しつぶす感覚は、この上ない快感を生んだ。ぞわぞわとした感覚が腰から背骨を這いあがり、脳をとろけさせる。ふわりと全身が汗ばむ。
 思わず口端から垂れそうになった唾液をすすり、彼女の柔らかな唇と自身のそれを深くあわせた。口内にあふれる唾液を、熱い舌に乗せて送りこむ。
「飲んで。君の内側を、私で満たして」
 彼女は少しも嫌悪感を示さず、喉を鳴らしてウィリアムの唾液を飲みこむ。
 愛しい人の体内を侵食していく悦び、恍惚感に、ウィリアムは酔いしれた。
「んっ、すぐに下のほうも、満たしてあげるからね」
 既に先走りはあふれ、彼女の子宮をしとどに濡らしているだろう。それを想像するだけでも、さらに興奮が高まり、いっそう先端が充血する。
 凶器めいたそれで、彼女の熟れた奥を短い間隔で抉る。
 とちゅ、とちゅ、という水音と激しい息遣いが、うっすらと響くワルツの音を酷く淫らなものにした。
 やがて曲の終わりに近づいた頃、ウィリアムも仕上げに入る。女性らしい腰を掴み、彼女の首がかくかくと揺れるほど激しく突きあげた。
「……るっ、出……るっ! 出るよっ、入り口を締めて、私の子種を、一滴もこぼさないようにね……っ」
 器用な彼女は、またもやウィリアムの願い通り膣口をきつく締める。
 腰を引いた瞬間、ずるりとすすられたような感覚がして、ぞっとするほどの快楽に眩暈がした。大きく全身を震わせ、彼女の奥に奥にと先端を押しつけながら、欲望の全てを注いだ。
「っ、あ……! あぁ……」
 彼女が静かに痙攣するだけだから、ウィリアムの声がより際立って室内にこだまする。
 息が落ちついてくるに従って、ウィリアムはその事実に笑いがこみあげた。
「くっ、はは……、ははは……」
 覆いかぶさったままの彼女と胸を合わせるが、鼓動が響きあうことはない。そこにはただ、一人で踊っているウィリアムの心臓があるだけだ。
 その静寂に、毎夜打ちのめされる。
「……、触って」
 命じれば、彼女はウィリアムが思い描いた通りの動きで頬に触れてくれる。それもそのはず――今の彼女は、ウィリアムが死霊使いの能力で繰っている、死人なのだから。抱いた時の中の動きも、生前の記憶をもとに反応しているだけだ。
 そうわかっていても、共にいられることが幸せだった。
「もっと、触って」
 彼女の手で頬を、顎を、すっと通った鼻梁を撫でられ……ウィリアムは、まだこの世にいるのだと再認識する。今や自分の生存を確認できるのは、この方法だけだ。
「今日も一緒にいられたね……」
 命令がない限り閉じない虚ろな目。それに微笑みかけるウィリアムは、紛うことなき『愛しい妻を抱く夫の姿』それそのものだった。事実ウィリアムにとって、今も彼女は妻なのだ。断じて死体などではない。
 見方を変えれば、本当に彼女はただの死体ではないと言えた。あらゆる最高峰の魔法を駆使して保たれている彼女の肉体は、近づいてまじまじと観察しなければ、死人だとはわからないのだ。ゆえにこそ「高級な人形遊びに興じている」と囁く者もいた。
 当然ながら、王家の威信に関わるそんな噂話を、兄王が放っておくはずがなく――

「っ……ウィル。まさかお前が、本当に死人と交わっていようとは……」
 かちゃりという小さな音がして振りむくと、そこには呆然とした様子で立ち尽くした兄王エドワードがいた。開いた口がふさがらないといった顔だ。ぶるぶると震える拳には、行為に対する嫌悪感も見てとれた。
「おや、兄上。かしましい貴族の方々のお相手で忙しかったのでは?」
 死人となった彼女との交わりをエドワードに目撃されたのは、初めてのことだった。それでもウィリアムは慌てず、彼女と自分の衣服を正した。慌てるような可愛らしい心が、もう残されていなかったともいえる。
 それをウィリアムの微笑から感じ取ったのだろう、エドワードは眉間の皺を深めた。そして耐えかねたふうに短い息を吐き、足早に近づいてきたかと思ったら、
「いい加減にしろ、ウィル!」
 彼女の手を引っ張り、その体をウィリアムから強引に引きはがした。
「!」
 未だかつて、兄エドワードがここまでの強硬手段に出たことはなかった。
 だからこそウィリアムは驚愕し、反応が遅れた。一拍おいて「取りあげられた」と理解した瞬間、頭の中が煮えたち、何かを考える前に体が動いた。
「――返せ」
 神技と称えられる速度で抜剣し、ギラリと光る剣先をエドワードの喉に宛がう。
「っ!?」
 初めて目にする弟の殺意に、エドワードは束の間、声も出なかった。
 数秒ほどの静寂の間に、エドワードの瞳が物憂げに細められる。泣きそうにも見えた。
「……裏切るのか、ウィル」
 兄の悲哀を乗せた声にも、ウィリアムは動じなかった。
「いいえ、私は貴方を裏切りません。死地で見捨てられようとも、魔物が跋扈するリラインに置き去りにされようとも、貴方を恨んだことはない。けれど彼女に関することだけは別です。彼女を私から奪うというのなら、今すぐ貴方を殺す」
 鋭い切っ先が、柔い喉の皮膚を押す。それが破れるか破れないかという頃合いで、エドワードはそっと彼女を解放した。
 ウィリアムが腕を伸ばすと、彼女は静かにその腕の中におさまった。
「……残念だよ」
「『気が触れたのか』とは聞かないのですね」
「聞かなくてもわかっている。だが忠告はしておきたい。……彼女の魂は英霊となった。それを我欲のために肉の檻に閉じこめ続ければ、お前の魂は天に昇れなくなるぞ」
 恐らくは真心をこめて言ったのであろう声も、ウィリアムの心には響かなかった。美しい唇の端を歪め、くつりと喉奥で笑って答えた。
「兄上が神託を受けていないと知りつつ『聖戦』の名のもとに虐殺を繰り返した私の魂は、既に神々に見放されている」
「嘘ではい。私は神託を得た」


 ヴァラディスを倒した後も、プレートラントは戦を止めなかった。兄エドワードが「裁きを下せとの神託を賜った」と発したためだ。以来、プレートラントは「光の神の名のもとに」と叫びながら、まだ罪を犯してもいない他国を征服した。
 リラインという神の遺物を発動させたプレートラント王家の言葉に異を唱える者は、おかしなことに誰一人いなかった。
 そんな中でただ一人、ウィリアムだけが真実を知っていた。


「兄上。私は彼女を害したこの世を恨み、最大限の力を使い続けた。その結果、今の私は限りなく『覚醒者』に近しい存在になっている。以前は聞こえなかった闇の神の声も、聞くことができるのですよ」
 彼女に座っているよう優しく命じ、ウィリアムはゆらりと立ちあがる。
「ゆえに知っているのです。貴方は神の神託など受けていない。ソヴェリアが反旗を翻した時から危機感をおぼえた貴方は、我が国に牙をむきそうな国を潰してまわっている。全ては、プレートラントの存続のためだ。聖戦などではない」
 断定する声を、エドワードは遮らなかった。最後まで聞こうというふうに、軽く顎を引いて、ウィリアムを見返してきた。
「それでも私が戦い続けたのは、優秀な戦績を残せば、彼女といられる時間が長くなるからだ。今の状況では、頭がおかしい弟でも使わざるをえないでしょうからね」
「誰が狂っているなどと言った」
「貴方が思わずとも、他の有力者はそう言っている。『アイツは頭がおかしいが、戦績は優秀だから放っておこう』とね。私はその状況を利用し、偽りの神託を信じているふりをし続けた」
「残念ながら、神託は本当だ。ただし受けたのは、かなり昔のことだがな」
「どういう意味です?」
「お前は知らないだろうが……」
 その時、久しぶりにエドワードは笑った。もっとも、苦々しい笑みだったが。
 ウィリアムが目顔で問えば、エドワードは揺らめく蝋燭の炎を見やった。どこか遠い昔を思いだしている目で、とうとうと語った。
「プレートラントの国王は、王位を継ぐ時、とある儀式を秘密裏に受ける。その儀式で、神より使命を賜るのだ。私が今代国王として賜った使命は……プレートラントを栄えさせ、どんな手を使ってでも勇者の血を継ぐ者を次の王にすること、だ」
「理由は?」
「さてな。はっきりとはわからない。神は我ら人間では想像もできないほどの先を見ていらっしゃる。私にわかるのは、それが遥か先の世界の形を左右するということだけだ。だからウィリアム……お前には、なんとしてでも子を成してもらわねばならぬ」
「傍系からとればいい。私は彼女以外と交わるつもりはありません」
「傍系では力が弱い」
「単純に力の強い者をお望みなら、お得意の媚薬で、幽閉している皇帝に成してもらえば良いでしょう。万が一の保険として、あれを生かしているのでしょうから」
 表向きには処刑されたことになっているかの者は、今王都の外れに幽閉されている。生かされていることは王とその側近しか知らないはずの秘密だが、なぜ生かされているのかという理由は――国を揺るがすほどの、もっと危険な最重要機密事項だ。
 常に冷静なエドワードも、これにはさすがに動じたらしい。僅かに目を瞠った後、王の顔をして呟いた。
「……残念だ」
 恐らく今この瞬間、エドワードにとって、ウィリアムは要注意人物の一人となったのだろう。発されたのは先ほどと同じ言葉のはずだが、声音から受ける印象は全く違った。
 研ぎ澄ました刃を思わせる硬質な響きが、室内の温度を下げる。
「……」
「……」
 戦場さながらの緊迫感が随分と長く続いていたが、壁時計の音がそれを打ち破った。
 エドワードは無言で長衣の裾を翻し、一人扉へと向かう。
 それを見送るウィリアムもまた、何も言わなかった。
 このまま兄弟の絆が切れるのかと思われた、その瞬間――
「……もう一つだけ、言っておこう」
 扉の縁に手をかけたエドワードが肩越しに振り向き、深い悲しみを感じさせる声で言った。
「ウィリアム。お前はその賢さゆえに狂うことができず、変えられない現実で心を擦りへらしていくだろう。このまま彼女を手放さなければ、あとに待っているのは、空しい終焉だけだ」
「それも『神託』ですか」
 ウィリアムの皮肉に、エドワードは苦笑で返した。
「いや。兄としての『予言』だよ」

 ぱたり、と控え目な音を立てて扉がしまる。
 しばらくは時を刻む秒針の音だけが響いていたが、やがてウィリアムの呼吸音のほうが大きくなっていった。
 窒息寸前であるかのように肩で息をし、頭を抱えて膝をつく。見事な金髪の数本がむしられ、床にはらはらと落ちる。
「誰もかれも、余計なことを! 私は彼女といられれば幸せなんだ! 幸せなんだ!」
 叫びながら愛しい妻にすがりつく。
 力任せに抱きしめられた彼女の体が反り、きしんだ音を立てた。
「私を愛していると言ってくれ!」
「愛してる」
 すぐさま返ってきた声は、昔と変わらず麗しく……そして、かつてとは比べものにならないほど冷ややかだった。人間の温かみがない。
「もう一度」
「愛してる」
 そうして何十回と言わせて、ようやく息が整ってくる。
「あぁ、私も愛しているよ。この世界の誰よりも」
 胸の内で「手を握り返してくれ」と命じ、指を絡ませあう。
 冷たい唇に、熱い想いをすりこむようにして囁いた。
「兄上も愚かなことを言うものだ。こんなにも私たちは、満たされているというのに」
 滑らかな手を取り、いつもと同じ動きで頬を撫でさせる。
 崩れていく心を、その感触で繋ぎとめた。
「っ、満たされている……」

 そう言ったウィリアムもまた、本当はわかっていた。
 この夜のエドワードの予言が、いつか現実になるのだろうと……。

 

 

<了>

 
 

※レオのハッピーエンド後のネタバレを、やや含みます。プレイ前の方はご注意ください。

※2019年8月6日にツイッターで実施したアンケートでウィリアムが一位になったので、

SweetPrincess vol.28」にウィリアムの描きおろしイラストとSSが掲載されました。

ですが本当に僅差だったので、レオをRTしてくださった方への感謝の気持ちをこめて、

レオの後日談SSをサイト掲載いたします。

人気投票御礼

ヒロイン視点 レオSS

『同じ傷』 著・雪華

 眠りが浅くなったところで、じくじくとした右胸の痛みに目覚めを促される。
 意識を夢と現の間にさまよわせながら瞬くと、朝の柔らかな光がカーテンの隙間から漏れていた。その光の一端が、隣で眠る私の夫、レオの頬を照らしている。
 夫婦になって数年、ずっと眺めているのに、どうしてもこうも見飽きないのか。
 堀の深い精悍な顔だちは、誰もが見惚れるほど整っている。けれど私は、その姿形に惹かれているわけではない。もちろん、それも好きだけれど。
(強い決意を現したような、この顔が好き)
 微笑んで見つめれば、眉間に少しだけ皺が寄る。男性のそんな表情が可愛く思えてしまうのだから、愛とは薬であり、思考を麻痺させる毒なのだろう。
 本能的に視線に耐えかねたのか、ついに瞼が薄く開く。朝陽を乗せた睫が揺れると、ごく小さな光が弾けるようで、それもまた美しかった。
「んー……、おい、なんで先に起きてるんだよ」
「貴方の寝顔が見たくて」
 睦言の甘さで囁く。
 レオは苦笑の息を吐いて、長い腕で私を引き寄せた。
 くすりと笑った唇を、軽く吸われる。
「朝から誘惑するなよ。食っちまうぞ」
 かぷかぷと幾度か私の唇を甘噛みした口が、そのまま鼻頭も噛む。
 ついに声をあげて笑いだした私を、レオの真剣な目が窘めた。
「口説くのは、全快するまで禁止。俺がお前の誘惑に弱いのは知ってるだろ」
 慎重さを感じさせる指先が、私の痛む右胸をそっと撫でる。
 不謹慎だと知りつつ、薄い寝間着の下の肌がざわめく。レオの手にかかれば、治りきっていない傷痕さえ甘美なものとなる。
 そう思う気持ちが瞳に滲んでしまったらしく、レオは嬉しそうでいながら、困ったような顔で微笑んだ。
「だから、誘惑するなって言ってるだろ」
「もうなんともないよ。一晩寝たらすっかり元気になった」
「妻が射抜かれているのを、傍で見いてた俺の気持ちになってくれ」
 言われたことで、矢で胸を貫かれた瞬間の痛みを思い出す。

 ――ヴァラディス帝国の援軍としてかけつけた戦場で私が負傷したのは、つい先日のことだ。
 ステイフォールでの凄惨な戦いから数年が経ち、同盟国にまでになったかの国とは、現時点では良好な関係を築いている。けれどそれは、中枢との関係であり、帝国全体で考えると火種は点在している。かつての敵国であるプレートラントと懇意にしようとする新皇帝に、不満を抱く者は多く、各地で大小の反乱が起きているのだ。同盟で安定した暮らしを得られるとしても、人々のプレートラントに対する恨みは根深い。
 それらに、現在の皇帝は手を焼いている。新しい体制を整えるので忙しく、さすがに全てを制御するまでには至っていないのだ。
 プレートラントとしても、親和を望む現在のヴァラディスの体制が崩れるのは好ましくない。
 そういう事情があり、機動力の高い私たちがヴァラディスに派兵された。
 その任地で、私たちは窮地に陥った。民衆たちによる蜂起だと思われていたものが、実は裏に領主まで絡んでいたのだ。

 民衆を落ちつかせて一段落ついたと思っていたところで大軍勢に攻められ、完全に意表を突かれた。これをやられると、第一魔術師団は少し困ったことになる。
 一人一人が高い能力を持っている第一魔術師団だが……魔力の残りが少なくなった状態で、かつ圧倒的な数で攻められると、持久力が切れた時に崩れやすくなるのだ。第一騎士団が共に派兵されていなければ、もっと不利な戦いを強いられていただろう。
 そうして不利を悟った私たちは、団長の的確な指示で後方に移動しながら戦っていたのだけれど、それを予測していた敵側に囲まれた。
 降り注ぐ矢の雨。威力を増した大砲が、四方で火をふいた。――確実な殲滅を狙った攻撃だった。

 ウィリアム様の結界だけではどうにもならないと、私は咄嗟に判断した。皆を守れる位置まで駆け抜け、残っていた魔力でできる最大限の白炎を展開した。
 結果、焼ききれなかった矢が、私の右胸と掌を貫通した。魔力がもう少し残っていれば、全てをどうにかできたのに……と悔やんだけれど「後悔先に立たず」だ。

 こうなっては、さすがの『覚醒者』でも痛い。そもそも私は『光魔法の覚醒者』ではないから、回復魔法は門外漢なのだ。
 倒れていく最中に見たレオの顔は、今すぐ死にそうなほど青ざめていた。次第にその顔が、世の憎しみを全て集めたような形相になり……。痛みよりもそちらのほうがトラウマになった、というのは私の胸に秘めておこう。
 意識が朦朧としてしまったから、その後のことは朧気にしか憶えていない。
 私を必死で回復させたトーマスいわく、悪魔よりも恐ろしい顔でレオが敵を焼き殺していったらしい。しかも魔力切れを起こしてからは、振りおろされた剣を逆に奪い、血の雨を降らしたのだとかなんとか……。
 わりと容易に想像できるだけに恐ろしい。
 そんなレオの獅子奮迅の――皆のトラウマとなった――戦いと、元々私がほとんどを焼き殺していたのもあり、第一魔術師団は勝利をおさめた。


 ……というのが、負傷の経緯だ。

 心配をさせてしまって申し訳なく思いつつ、私もささやかな反論をした。
「見ていないところで夫に大怪我をされた、妻の気持ちにもなって」
 私の頬を撫でるレオの手をとり、うっすらと残る赤い傷痕をなぞる。
 私が治療中で朦朧としている間、レオは左手を剣で貫かれていたのだ。それでも皆の話では「あの痛みすら感じていないのでは?」という形相で、戦い続けていたらしい。
「胸を貫かれることに比べたら軽傷だろ」
「普通は、剣が掌を貫通したら『軽傷』とは言わないよ」
 王国一の回復魔法の使い手のトーマスがいなかったら、神経に影響が残っていただろう。
 泣きたい気持ちで、傷痕に口づける。
 その瞬間、レオの肩が僅かに跳ねたのを、私は見逃さなかった。
 唇を手首にまで滑らせ、誘う仕草で薄い皮膚を吸う。
「……おい。さっき俺が言ったこと、忘れたのか?」
「レオこそ、私が戦場で言ったことを忘れちゃったの?」
「それは……」
 窮地に陥った時、私は自分を鼓舞するために、あるおねだりをした。
「『無事に帰れたら、行軍中に我慢してた分も抱いて』って言ったよね。そうしたらレオ、なんて言ったか憶えてる?」
「……『お願いされなくても、そうしようと思ってた』」
「うん、そう答えたよね。あれは嘘だった?」
「嘘なわけないだろ。行軍中、どれだけ俺が我慢していたか……。あ、そういえばお前、毎回寝ぼけて俺の毛布に入ってくるクセ、どうにかしろよな。また本気で『ちょっとなら入れてもいいかな』とか思っちまっただろうが」
 ストレートな物言いに頬が熱くなる。恥ずかしいのに、それだけ求められていると思えば、嬉しくもなった。掌の傷痕に唇を滑らせながら、精一杯のねだる目を向けた。
「今なら『ちょっと』じゃなくて、いっぱい……できるよ。本当に、もう元気だから」
 実を言うと誘うのはかなり恥ずかしかったけれど、私だってレオを求める気持ちは同じなのだ。むしろそれ以上かもしれない。肉欲どうこう以前に、レオが生きているということを全身で感じたかった。そうしてやっと、守り通せたのだという実感がわく気がする。
 レオの眉間がぎゅっと寄せられる。一生懸命我慢している顔だ。
 とどめに喉もとに鼻先を寄せると、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。
 小さく唸る声がして、それからレオは降参したふうに長い息を吐いた。
「……少しでも辛そうな顔をしたら、止めるからな」
「難しいよ。気持ちよすぎて辛そうな顔になっちゃうもん」
「お前……、可愛すぎるのも大概にしろよ。ぶっ壊しちまうだろ」
 と言いつつ、覆いかぶさってくる動きは、壊れ物を扱うように優しい。
 窺う仕草で薄い寝間着がめくられ、朝の冷気で胸もとに鳥肌が立った。
 それを宥めるふうに、熱い舌が胸を這いあがる。やがて頂きに辿りついた舌先が、早くもぷっくりしてしまっている乳首をねっとりと舐めた。
 早い反応を恥じて息を詰めると、レオの喉奥の振動が伝わってきた。
 揶揄する声が色気を帯びる。
「俺を誘惑しながら感じてたのか?」
「淫らな妻だって呆れる?」
「可愛すぎてアレがガチガチになった」
 相変わらずの飾らない言葉に、私のほうが照れた。
 身じろぐと、言葉通りの硬さをもったものが太腿に当たる。
 つい期待に胸が逸り、太腿をすり寄せてしまう。
「っ、あんまり挑発すると、優しくできないぞ」
「しないでいいよ。どのくらい我慢してたのか教えてよ、レオ。本当に私より我慢してたのか、勝負しよう」
 手を伸ばしてレオの耳に触れる。
 興奮しているせいか、伝わってくる体温はだいぶ高い。
 ああ、本当に生きている、ちゃんと守れた。――そんな感動に浸っていると、仕返しのごとく、じゅうっと音を立てて乳首を吸われた。
 いきなりの強い刺激に肩を跳ねさせ、嬌声が口をつく。
「あぁっ!」
「夫のいうことを聞けない妻には、お仕置きしないとな」
 今度は反対の乳首を甘噛みされ、久しぶりの快感に歓喜の声が漏れる。ざわめく肌をまさぐられた。

「はぁ、……ああ」
 ​レオの手が、徐々に内ももを伝いのぼってくる。

 喘いでみじろげば、触られる前から陰唇が濡れているのを感じた。
 焦がれすぎて、誘う蜜が止まらない。
 男らしい指先がぬめる陰唇に埋められれば、想像通りの水音が立った。
 傷痕の残る掌を握りしめ、羞恥に耐える。
 するとレオが、その手をとった。心を開けというように指を一本一本伸ばされ、最後に深く握りあわされる。そしてもう一方の手で、濡れてしまった私の下着をとり払った。
 露わになった陰唇がもう一度開かれ、さっきよりも深く指先が潜りこんできた。
 愛液で滑りがよくなった膣口に、長い指がゆっくりと入ってくる。
「ふっ、あっ……ぁ!」
 ぞくぞくと肌が粟立ち、膣が自然と指を締めつけてしまう。
 レオは「優しくできない」と言ったくせに、過ぎるくらい丁寧に中を愛撫した。特に感じる一点を幾度もなぞられ、その度にびくびくと腰が震える。
 聞こえる水音はなぞられるごとに大きくなり、それがレオの興奮も高めているようだった。くちゅくちゅという音を聞いたレオの口端が、にやりとあがる。
 表情で煽られ、ぶわりと体温があがった。
 レオは真っ赤になっているでろう私の頬に口づけ、耳元で囁いた。
「確かに、いい勝負だな。こんなに濡らされたら、焦らす余裕なんてなくなる」
「んっ、ふふ、嬉しい。最近のレオ、いつも余裕たっぷりだから」
「そう見えているんだとしたら、俺は役者になれるな。……お前を抱いて余裕だった時なんて、一度もない」
 興奮で掠れ気味になった声にも愛撫されたようで、また愛液が滲む。
 レオは荒い息を吐きながら自身の下着を脱ぎ捨て、私の膝裏を掴んで脚を広げた。
 焦れてひくつく膣口に、大きすぎるものが宛がわれる。
 およそ日本人女性の膣には入らなさそうな熱杭を目にする度、いつも少しだけ恐くなるのに、期待でますます濡れてしまう。
 できるだけ体の力を抜いて迎える準備をすると、太いものの先端がゆっくりと押し入ってきた。
「んっ、ぅあ……ん」
 一番太いところまでを飲みこむのが、少しだけ苦しい。敏感で薄いところを、目一杯のばされている感じがする。

 はぁ、と息を吐いて堪えると、その息を拾うように口づけられた。

 熱い舌がいたるところを舐め、刺激された口内に唾液があふれる。

 くちゅくちゅという粘質な音をあえて生むように、舌が絡まりあう。
 そうして甘いキスに夢中になっている間に、太い肉茎がずるずると奥まで入ってくる。やがて硬い先端が、とん、と最奥を優しく叩いた。
 それでも埋まりきらない熱杭が、焦れたように中でビクつく。

「はぁ……、あ……」
 以前は強烈だった圧迫感が、心地いい。これがどんなに私を気持ちよくしてくれるのか、今の私は知っている。
 うっとりとしながら、お腹の上から肉茎をなぞった。
「んぅっ、はっ……あぁ、今日は一段と、おおきいね」
 私のその仕草を見たレオは、苦しげに目を細め、瞳の奥をギラつかせた。
 先端が、中から私の指先を叩くように跳ねる。
「そのクセも、今後は禁止な。あんまり俺の理性を試すなよ」
「試してなんか……」
「試してないなら、もっと駄目だ。お前にそれをやられると、全部……入れたくなる」
 少し汗ばんだレオの胸が重なってきて、膣がぐっと伸ばされる。
 硬い先端でポルチオが押しつぶされ、悪寒めいた快感が足先から頭までを走った。
「ぅあっ――、あっ……はぁ!」
 とてつもない圧迫感で、ぶるぶると震える。
 けれどレオの子を産んで、大きさに慣れた膣は、柔軟に伸びて全てをのみこんだ。
 入れられているだけで中が悦び、ざわめいて、膣襞が肉茎にまとわりつく。その感触で勝手に気持ちよくなってしまい、一人でいきそうになった。
「ふっ、く……」
 唇をかたく結んで絶頂をやり過ごす。
 それなのにレオが腰を回すから、大きな快感の波に飲みこまれそうになった。
「やだ、いじわる、しないで」
「お前のほうが意地悪だろ。入れただけで、こんなに中をうねらせて……、はぁ、俺を果てさせようとしてる。ちょっとは抜き差しさせろよ」
 揶揄する言葉かと思ったけれど、中の圧迫感が増して、お腹の奥で本当なのだと感じる。
 レオも同じくらい感じているのだとわかって、嬉しさに頬が緩んだ。
「んっ、いいよ。私もいきそうだから、このまま中に……ちょうだい」
 欲望のままに口にすると、間近にあるレオの瞳が眇められる。
 痛みに堪えるような表情が色っぽくて、胸が高鳴る。早くあの熱いものがほしいと自然と思い、ぎゅっと中のものを締めつけた。
「っ、馬鹿、お前……! はっ……、く……ぅっ!」
 不意打ちを受けたといわんばかりの掠れた声が、耳元で響く。
 直後に埋められたものがいっそう膨れあがり、大きく跳ねた。その後も痙攣は続き、複数回にわたって熱いものを注がれた。
 その感触で、私も抑えていた快感の渦に飲まれる。びくびくと腰を震わせ、喉を反らして嬌声を漏らす。
「ふ、ぁっ……、あぁあ……っ」
 緩やかな、それでいて深い快感だった。
 出された精液を全て飲みこもうと、最奥が貪欲に動いているのを感じる。
「ん……、きもちいい……」
 陶然と呟けば、舌打ちに似た音が耳を打つ。
 次の瞬間、しとどに濡れた奥が、未だ硬いもので押しあげられた。
「ひぅっ!? あっ!」
 びりっとした刺激に目の前で火花が散る。
 達したばかりの中は酷く敏感になっていて、奥をごりごりと擦られれば、全身から汗がふき出た。
「だっ、め! わたし、いま……っ、いったばっか……りっ」
「ああ、奥のほうが柔らかくなって、ぐっちゃぐちゃになってるから……よくわかる。この感触、すげぇ好きだ」
「ぅあっ、ん! だから……! あぁっ! これいじょう、だめっ、だ……めぇっ!」
 嬌声まじりの声は役に立たず、レオは少しも止まってくれない。精液を押しこむように腰を回し、ぬちゅり、ぐちゅりと淫猥な音を立て続ける。
 過ぎる快感に恐れをなして片手を手を突っ張ろうとしたら、その手もシーツに押さえつけられてしまった。
「っ」
 傷を負ったほうの手が、少しだけ痛む。けれどレオの掌の傷痕と擦れあうのを感じたら、その痛みさえ悦びとなった。

 まったく、矛盾している。傷を負わせたことを悲しく思いながら、同じ戦場で同じ傷を負えたことを、どこか嬉しく感じているのだ。
 私のうっとりとした表情でそれを察したのか、はたまた同時に思ったのか、レオが嬉しそうに目元を緩めた。
 傷同士を押しつけるように、ぎゅっと手が握りこまれた。
「痛みも、苦しみも、喜びも、わけあおう。全部、一緒だ」
「ふっ、あ……っ、ん! うん! レオッ、どこまでも、いっしょ……!」
 より硬さを増したもので、ぐりりと奥をこすられる。眩暈がするほどの快感に涙がこぼれた。

「あぅっ、やっ……! そこっ、そこ……は、ぁ」

「ん、知ってる。ここだろ?」

「ひっ、ぁあ! そこ、ばっかりぃ……! んっ、んん……はぁ……あぁー……」

 感じすぎて声も蕩ける。

「ここ、嫌いか?」

「す、き……すきぃ、レオ……すき」

 荒い吐息の中、レオの情熱的な声が鼓膜を震わせた。
「っ、愛してる」
 口づけられながら、より深くを抉られる。
 それだけでも十分強い刺激だったけれど、いつもなら仕上げに腰を叩きつけられているところだ。やっぱり私を気遣って、控えめな動きにしているのだろうとわかる。
 大事にされているという実感に、また新たな涙が浮かんだ。
 腰から溶けてしまいそうな快感に震え、しゃくりあげながら訴えた。
「あっ、ああぅっ! レオッ、れお……! また、また……! わたし……!」
「あぁ、俺も……! 出る……から! 一緒、に……!」
 腰を揺らし、二度目の絶頂へと二人で駆けのぼる。
 快感のあまり意識が薄らいだ刹那、中のものがぐっと膨らんだ。びく、びく、と幾度も跳ねなら、熱いものを迸らせる。
 私もまた、強く手を握り返しながら激しく達した。
「っ、ああぁ……!」
 さっき以上に喉を反らし、悲鳴じみた嬌声をあげる。

 数秒経って、くったりと体から力が抜けた。

「くっ、はぁ……! はぁ、はぁ、っ……はぁ」
 レオは息を詰まらせながら、脱力した私の中に、まだ残滓を注いでいるようだった。数回私の体を揺すり、やがて荒い息の中に苦笑を混ぜる。
「はぁ、はぁ……はぁ……、はは……、お前が相手だと、忍耐って文字が頭の中から吹っ飛ぶ。駄目な夫だよな」
「ううん、最高の夫だよ。満たしてくれて、有難う」
 二度も達して興奮がおさまってきたからか、つきり、とした痛みを手に感じた。
 気づいたレオが一度力を抜いて、そっと握りなおす。
 今更のようにレオの傷痕に切なくなった私は、小さな声で謝罪した。
「……守りきれなくて、ごめんね」
 レオは軽く音を立てて私の唇に口づけ、微笑んで言った。
「俺たちは同じ傷を抱えながら、それでも前に進む。守ったり、守られたりしながら。……支えあうって、そういうことだろ。だから謝らないでほしい。必要なのは、謝罪じゃなくて生き残るための決意だ」
 それが単なる身体的な傷を指しているのではないと、表情から察した。
「うん……」
 私たちは家族を失うという同じ痛みを経験し、愛しあうことで乗り越えた。けれど私の心の奥底には、未だに家族を失うことへの、常軌を逸した恐怖心がある。だから、あんな無茶な行動もとってしまう。
 レオはそんな私を、ずっと心配しているのだ。
 私は改めて、決意をこめて頷き、口づけ返した。
「そうだね、エリクのためにも」
 頃合いを見計らっていたようにノックの音が響く。きっとトーマスが治療にきてくれたのだろう。
 もしや聞かれていたのでは……という私の不安を、甘いキスが吸いとっていった。
「今日の治療で、もっと薄くなるといいな。傷痕」
「ふふ。……そうだね」

 ――レオとなら、どんな傷だって治していける。
 私を愛おしそうに見つめる瞳に微笑み、それを確信した。

<了>

 

※トーマスのハッピーエンド後のネタバレを含みます。プレイ前の方はご注意ください。

トーマス視点SS

『光あれ』 著・雪華

 夕空から光を集めるように、天に向かって手をかざす。界を越えた向こう側に問いかけた刹那、指先がじわりと暖かくなった感覚があった。その五指を握りこみ、神の恩寵を手繰り寄せる。そして眼下に向かって掌を開き、奇跡の名を口にした。
「――光あれ」
 次の瞬間、丘の下に白い光が満ちる。広い戦場で血を流していた人々の姿が束の間、見えなくなる。
 目が眩むほどの光量が落ちついてくると、方々から「おお、光の神よ」と称える声があがった。
 中にはこちらに向かって手を組み、感動にむせび泣きながら僕の名を呼ぶ人々もいた。
「あぁ、トーマス様……尊き白の聖者様、有難うございます」
 こうして英雄として扱われる度に複雑な心境になる。かつての僕なら得意になって胸を反らしただろうけれど……今の僕がこの世界を守るのは、英雄になるためではない。全ては、愛しい彼女と我が子のためだ。彼女が生きているこの世界だから、均衡を守るための御遣いとして日々駆け回っている。

(はー。疲れた疲れた。今回の任務は、やっとこれで最後だ。早く帰って彼女をめっちゃくちゃに抱きたい)
 人々に向かって聖者らしく手を振り、笑顔を振りまく一方で、頭の中は肉欲まみれで人間臭い。
 そうとは知らない神官たちは、振り向いた僕に向かって深々と頭を下げ、恭しい礼の姿勢をとった。
(この地方では特に光の神が崇められているから、なおさら僕の姿が神のように見えているんだろうなぁ)
 今いるのは、プレートラントから見て西に位置する大陸内の、王国の一つ
。近年同盟を結んだこの国から、エドワード様が要請を受け、そして僕に王命が下された……というわけだ。
 といっても、僕は王命がなくてもここに来るつもりだった。先見の神が口うるさく「西に向かえ」と言ってきたからだ。
 あの声が頭の中に響くと無性に苛々する。思い出したせいで笑顔が引きつりかけた時、
『――ご苦労であった。そなたの働きにより、この世の時は、また永久なるものとなった』
 今まさに嫌悪していた声が響いてきて、眉間に深い皺を刻みそうになった。寸前で白の聖者にふさわしくない表情だと思いとどまり、軽く深呼吸をする。
 気を取りなおし、頭の中で文句を並べた。
『ええ、本当に苦労しました。先見の御方、貴方は人使いが荒い。長く存在し続けたせいで、僕が未だ肉をまとっていると遂にお忘れになられたのかと、僭越ながら案じておりました』
 大がかりな光魔法を実行するごとに、僕の魂は神へと近づいている。そのせいで最近は神の声がよく聞こえるようになり、こうして先見の神にこき使われるはめになった。まだまだ人間でいたいのに、まったく厄介なことだ。
 こそりと悪態をつくと、何かを考えているらしい間が置かれた。
『……神は老いない』
 その言い方が拗ねた感じに聞こえたから、吹きだしそうになってしまった。
 先見の神は頭が固く、真面目で、自他ともに厳しいが――繊細な方でもあるのだ。だから僕に嫌われていることを、実は悲しく思っている。神界では神同士の争いは禁忌といわれているから、そのせいもあるのだろう。いつか僕が天に昇った時に、できれば対立したくないと願っているのが、言葉の端々から伝わってくる。
 そうわかっていても、僕はまだ先見の方に対する怒りを捨てられない。心が狭いと言われようが、これが偽りのない本心だった。むしろ先見の方には直接会って問いただしたい気分だ。
 ――僕の母を長らく監禁していた者を、どうして簡単に許せるだろうか。
 もう会話は終わりだという意味で心に蓋をしようとしたら、やや慌てたふうに声をかけられた。
『待て。此度のそなたの働きに対する礼を用意したのだ』
『貴方からの礼はいりません。僕が動くのは、彼女を生かすためですから』
『そうか。ではこの水鏡に留めた、そなたの妻子の微笑ましい光景も不要だな』
『……今、なんと?』
『そなたは大規模な魔法を行使している間、妻子の姿が見えないだろう。ゆえに私が、その間の光景を記録しておいたのだ。しかし、まあ……そなたがいらぬと言うのなら、捨てるとしよう』
『ちなみに、どのような光景ですか』
『そなたの息子が初めて立って歩き、それを喜ぶ妻の姿だ。誠に心温まる光景であった。いやはや、そなたが見られぬのは残念だな』
『……ずるい方ですね』
『なんだ、やはりいるのか?』
 外面は笑顔を保ちながら、奥歯をギリギリと軋ませる。こめかみに血管が浮きそうだ。
『……ほしいです』
『次に私を邪険にしないと約束するか』
『努力はします』
 妥協しての決着ではあったけれど、それでも先見の神は安堵の息らしきものを漏らした。
 その息に吹かれたかのごとく、僕の頭に素晴らしい光景が流れこんでくる。
 小さな脚をぷるぷると震わせながら立ち、どこか誇らしげに己の母を見る僕の息子。そしてそれを涙ぐみながら見つめ、満面の笑みで手を叩く彼女。最後には「この瞬間をトーマスにも見せたかった!」という感動のセリフ付きだ。
「ぐっ」
 あまりの尊さに、呻きながらしゃがむ。
(感動しすぎて死にそう。絵画にして永久保存したい)
 片膝をついたまま動きを止めていると、周囲の神官たちが何事かとざわめき、心配そうに声をかけてきた。
「ど、どうされました!? 聖者様!」
 背後の丘の下には、未だ処理されていない敵兵の骸が転がっている。そんな中、自分の妻子の愛らしさに胸を打たれていたとは言えない。
 すっと立ち上がった僕は、人々が持つ聖者の印象そのものの笑顔を象り、厳かに宣言した。
「神より新たな神託を賜ったのです。ゆえに私は、すぐに祖国に戻らねばなりません」
 我ながら嘘が上手くなったものだ、と少しだけ彼らに申し訳ない気分になる。
「おおっ、さようでしたか! このような奇跡の後に、すぐさま神託を賜るとは……さすがは白の聖者様。世界のために御力を尽くされる姿に、我ら神官一同、日々頭が上がらぬ思いでおります。改めて、心よりの感謝と御礼を申しあげます」
「私はただの遣いですから、私への感謝は不要です。全てはこの世の柱たる光の御方に捧げてください」
 象徴の一つとなった白い長衣を翻し、歩きだす。
 神官たちは両膝をついて手を組み、深く頭を垂れて見送りの言葉を述べた。
「永久なる敬意と敬愛を光の御方に」
 厳かな声を背に受けつつ、純白のドラゴン――フィンの背に跳び乗る。その間、光の神は彼らの声をどう思っているのだろうかと、ふと思った。

 世界の中核を担うかの神とは、数えるほどしか話していない。
 少ないやりとりを通してわかったのは、意外と茶目っ気のある方だというのと……真の狙いが僕ではないということだ。
 どうやら光の神が最も必要としているのは、人として正しき道を歩んだ後の、彼女の魂らしい。だから「彼女がいる世界ごと守りたい」と願った僕が、守役として最適だと判断されたのだろう。
 そういう意味でも、やっぱり僕は英雄ではない。高位の女神を生み出すための歯車の一つだ。
(まあ、彼女を守れるんだったら、なんでもいいけどね)

 ばさりという翼の音が響いてすぐ、耳元で風が唸りだす。どんどん遠ざかる眼下の光景を後目に、進行方向へと顔を向けた。
 一秒でも早く、彼女たちがいる王都に還りたい。もたもたしていると、またエドワード様が彼女のもとを訪れてしまう。
「まったくあの方は、国王なのに身軽すぎだよね。……いや、それだけ彼女のことが好きなのかな」
 ヴァラディスとの戦で、彼女の命がけの奮闘を見てからだろう。エドワード様は、彼女に執心している。
 過去の経験のせいで好意に鈍感な彼女は否定しているが、エドワード様の愛情の示し方はわかりやすすぎる。
 第一魔術師団の中で気がついていないのは、きっと当の彼女くらいだ。
(なんで勇者の血を継ぐ方々は彼女に惹かれるのかな。全員邪魔すぎる)
 最初は「さすがに人妻は奪わないだろう」と思っていたけれど、僕の父上にある話――重大な機密事項を聞いた後は、不安しか残らなかった。
 親子そろって同じことをしようとするとは、皮肉なものだ。
(いっそ男性器ごと不能になればよかったのに)
 なんて、不敬すぎることを思ってしまう。
「あー、最近の僕って、ますます聖者から離れていってる気がする……」

 エドワード様は昔、ある者の計略により毒殺されかけ、その際に子種を作る器官が腐り果ててしまった。
 しかし国王であるエドワード様の、男としての尊厳を失わせてはならないと、当時の魔術師と研究者たちは奮闘した。
 その結果、エドワード様は子を成すことはできないが、交わることはできる体となった。つまり興奮すれば、他の男と同じ状態になる。
 僕はそれが、心底忌々しい。そう言ったらこの世界が二分されてしまうから、間違っても口にはできないけれど。
 それにエドワード様が執心しているからこそ彼女の安全が保たれているのは、確かなことだ。
 世界は既に、僕の生命線が彼女であると知っている。だから少し前までは、彼女をさらって僕を意のままに動かそうとする連中がいた。
 それらを全て潰したのは、エドワード様だ。あの方は温厚に見えて、向かってくる敵には容赦がない。彼女の拉致を目論んだ他国の王を、一族もろともこの世から抹消した。
 まるで神と勇者の名をかさにきた恐怖政治だ。「神託にて裁きを命じられた」とプレートラント国王――今代の勇者が口にすれば、他国は納得せざるを得ない。
 もちろん神託などなかったと、僕は知っている。プレートラント国王が神託を賜るのは、戴冠式の前だけだ。
 それでも彼女を守るのに好都合だったから、僕は何も言わなかった。留守中に「下界の王」とも呼べる者が守ってくれるのなら、大きな不満だって飲みこめる。ギリギリ喉もとまで出かかっていても、なんとか。

「はぁ。先見の神も国王陛下も、僕にとっては難しい相手だよ。そう思わない? フィン」
 呼びかけると、フィンは長い首をひねり、不思議そうな目を向けてきた。
「母さまは、父さま以外の雄を絶対に受け入れないよ」
「わかってるけど、もやもやするんだ」
「父さまは下界で一番強いのに、心配ばかりしてる。フィンは、それが不思議」
「強さだけでは、どうにもならない時があるんだよ。だから心配事が尽きない」
「じゃあ、今日も母さまの見てるもの、確認する?」
 僕の神力が高まるにつれ、フィンとの共感能力もあがった。今では簡単にフィンの目を借りられる。
「してもいいと思う?」
「フィンにはわからないよ。フィンの感覚では、好きな相手とは全てを共有して当然だもの。それで、どうするの?」
 フィンは、心が強く繋がっている者の視界を共有できる能力を持っている。
 僕はそれを利用し、彼女の状況を把握する。
 要はフィンが彼女の視界を得て、そのまま僕の頭に流す――という図だ。ちなみに、集中すれば声だって聞こえる。
「うーん、見たいけど……一番見たいものは見られないんだよね。あぁ、やっぱりフィンに残ってもらえば良かった……」
 彼女の視界を得る方法では、当然ながら彼女本人の顔は見られない。
 対して実際にフィンが目にしているものは、第三者の目線で鑑賞できる。つまり彼女をじっくり見られる。
 彼女の視界を共有できるのも楽しいけれど、やっぱり一番に見たいのは彼女の顔だ。
(これも彼女に知られたら、怒られるんだろうなぁ)
 盗み見られていると知って喜ぶ者はいない。だからいつかは言おうと思っている。……そう、いつかは。……たぶん、きっと。
「もー、父さま、ぜいたく。じゃあ見ないの?」
「ごめん、見たいです。見させて」
 白く硬い鱗に額をつけ、全力で乞う。
 フィンは少し笑ってから、僕との同調を強めた。
 キィンという軽い耳鳴りがして、閉じた瞼の裏に彼女の視界が映しだされる。
 最初ウキウキとしていた僕は、段々と首を傾げていった。
「……ん? なんだろう、これ」
 まず、枕らしきものが見えた。横になって休んでいるのかと思ったけれど、それにしては視界が揺れている。不思議に思って静観していた僕は、しばらくして呼吸を止めた。
 ――彼女の手が秘めたる部分をこすり、粘質のある体液で濡れていたのだ。

「んっ、あ……ぁ、トーマス……。トーマス……ッ」

(え……? ええっ? 嘘。もしかして、これって……)
 僕を呼ぶ声は、抱かれている時のように甘い。というか、それそのものだ。加えて小さな水音が聞こえきて、心臓がドクンと跳ねた。
「僕を想って……自慰、してるの?」
 興奮と喜びが全身を駆け、一気に体温があがる。
 都合のいい夢を見ているのかと一瞬自分の正気を疑ったけれど、彼女の艶めいた声はどんどん大きくなっていく。
(そういえば僕が戻るのは明後日ってことになってるんだよね。だから寂しくて、耐えられなかったのかな)
 僕が必死の思いで早々に任務を終わらせ、最高速度で帰還しているなんて、彼女は知らない。あと二日間は寂しさに耐えなければいけないという思いが、彼女を淫らな行動に駆り立てたのだろう。あちらでは夜の帳が落ちているようだから、冷えた寝台で余計に寂しさが募ったのかもしれない。
「へぇ、こんなに……。こんなに、僕がほしいんだ……」
 ごくりと唾を飲み、片手で手綱を強く握る。もう一方の手で、だらしなくニヤついた口元を覆った。
 衝動的に、彼女の動きにあわせて自分のものをしごきたくなる。
 けれど、さすがに娘と呼んでいるフィンの上で、自慰はできない。
「あぁ、まったく……君は本当に、いつだって僕を煽るんだから……」
 戦場では汗一つかかなかったのに、今は掌が湿っている。
 やがて見ているだけで達しそうになった瞬間、彼女のほうが先に果てた。びくんと視界が揺れて、息を詰まらせたのが伝わってくる。
 きっと今は、愛液をこぼす膣口が物欲しそうに痙攣していることだろう。
 そんな淫らな想像をしていると、切なげな声が闇の中に響いた。

「……寂しい、トーマス」

 聞いた瞬間ぶわりと全身の毛が逆立つほど気が高ぶって、制服で押さえつけられた部分が痛みを訴えた。
 本当に達しそうになったものを、深呼吸でなんとか宥める。
「父さま、もういいー?」
「う、うん。もう十分……」
 フィンはドラゴンだからなのか、羞恥心というものをあまり理解できていない。むしろ愛しい伴侶に興奮するのは良いことだと思っている節がある。そうでなければ、最後まで見せてはくれなかっただろう。
「っ、たまらない……。早く会いたい」
 僕だって寂しい。会いたいし、抱きたい。いつもその気持ちを押し殺して出発している。
 だからこんな光景を見てしまったら……もう我慢なんてできるはずがなかった。
「フィン、もっと速く飛んで」
「でもこれ以上速くすると、父さまが疲れちゃうよ?」
「それでもいいから」
「わかった。じゃあ……、いっくよー!」
 ぐんっと加速して、体が後ろに倒れそうになる。全身に力をこめて転げ落ちないようにしながら、心は既に寝台の上にあった。

 ……そうして一刻ほど後に寝室の窓辺についた僕は、健やかな寝息を立てて眠る彼女を、やっとこの目で見られた。少しの悪戯心がわいて、音を立てないようにゆっくりと近づいていく。
 その間、ごろんと寝返りを打った彼女が、切なそうな寝言をこぼした。
「ん、トーマス……すき……」
「っ、だめだって。そんなこと言われたら……理性、もたない」
 荒い息を吐きながら寝台に乗りあげ、はおっていた長衣を脱ぎ捨てる。それから一旦深呼吸をして、仰向けになっている彼女の脚をそっと開いた。
「あー、これ、もっとだめ」
 果てた直後に寝落ちしてしまったのか、彼女は下着をはいていなかった。
 愛液で濡れそぼった陰唇が、月光に照らされて露わになる。
 久しぶりに嗅ぐ彼女の匂いに、くらりと眩暈がした。興奮しすぎて震える指先で、そっと彼女の陰唇をなぞる。
「ん……」
 くちゅりという水音と共に、彼女のくぐもった声が耳に入る。
 それでも彼女は起きなかった。よほど熟睡しているのか、まだ健やかな寝息を立てている。
「……あとどのくらい悪戯したら、起きるかな」
 寝込みを襲っていることに申し訳ない気持ちになったけれど、興奮は高まる一方で全然衝動を抑えられない。「変態っぽいな」と自分自身に苦笑しつつ、息を荒げながら下衣の前を開いた。
 反りかえったものの根元を握れば、早くしてくれと言わんばかりに肉茎が脈打つのを感じた。
「はぁ、はぁ、っ……ね、まだ起きないの? 起きないと入れちゃうよ?」
 張りつめた先端で濡れた膣口をなぞる。ぬるりとした感触に背筋がゾクゾクとした。
 思わず少しだけ腰を揺らすと、膣口が先端に吸いついてきた。待ち焦がれていたような動きで密着し、ヒクヒクと震える。
「なに、この動き……いやらしすぎる。可愛い」
 本当はもう起きているのではないかと思ったけれど、どう観察しても彼女は眠ったままだ。
 ますますいけないことをしている気分になるのに、興奮も高まってしまうのは、どうしてだろう……。
 頭の中が愛おしさと欲望でいっぱいになって、呼吸が乱れる。
 そうして彼女が、眠ったまま小さく喘いだ瞬間――ぶちりと、完全に理性の糸が切れた。
「っ、ごめん」
 彼女の腰を掴み、猛ったものを一気に突き入れる。
 指で慣らしていない中は狭かったけれど、予想以上に濡れていて、難なく僕のものを飲みこんだ。根本まで埋めれば、ぐちゅんという淫らな音が静かな室内に響いた。
「んあっ!? ひっ、ぁ!?」
 ここまでされれば、誰だって眠ったままではいられない。ついに覚醒した彼女が、驚愕を露わに目を瞠った。
 驚いたせいか中がきゅっと締まり、全体を絞られる。
 ぞわりとした快感が背筋を駆け、危うく達しかけた。
「っ、あー……気持ちいい。中、ぐっちゅぐちゅで……寂しかったって言うみたいに、絡みついてくる……」
「ト……トーマス!?」
「うん、僕だよ。ただいま」
「な、なにしてるの!?」
「あはは、君の濡れたここを見ていたら、すぐに入りそうだなって思ってさー」
「そ、そういう問題じゃ――、ふぁっ!?」
 彼女が一番感じるところに狙いを定め、先端でぐりぐりとこする。
 彼女はうろたえて腰をよじろうとしたけれど、微笑んでいっそう最奥を押しあげた。
 あっという間に愛液の量が増して、ぐちゅ、ぬちゅ、と大きな水音が立つようになった。
「やっ、あぁ! こんな、いきなり……! だめ……!」
 突きあげる度に肩をビクつかせる彼女の耳を甘噛みし、その耳元で囁いた。
「なにがダメなの? ああ、入れてすぐに、達しそうになってることかな? すごい水音だもんね」
「っ、なって、ない」
「へぇ、じゃあこの音、一緒に聞こうか」
 大きな音が立つように腰を回す。
 隠しようのない派手な水音に、彼女の耳が赤く染まる。
 その反応がまた可愛くて、意地悪な質問を重ねてしまった。
「ねえ、もしかして僕と淫らなことをする夢を見ていたの? だからこんなに、濡れていたのかな?」
 真実を知っていながら、あえて少しだけずれたことを聞く。言い当てれば、さすがに聖女のような彼女でも怒るだろうと思ったからだ。それに知らないふりをしたほうが、彼女の恥じらう様子を堪能できる。
 という期待通り、彼女は顔を真っ赤にしながら首を振った。
「んっ、見てない。ぜんぜん、見てない」
「じゃあ、どうしてこんなになっているのかな。もしかして、僕が帰ってくる前に違う男のものでも入れた?」
「そんな……、入れるわけないじゃない!」
「ふふ、良かった。だけどそうなると、ますます説明ができないよね。……ほら、もうお尻の下がぐっしょり濡れるほど、溢れてる。ただ眠っていただけじゃ、こうはならないでしょ?」
「っ……」
「正直に答えてくれないと、やっぱり浮気かなって思っちゃうなぁ」
 彼女の脚を抱えあげ、激しく突き入れる。
 幾度か揺さぶると奥がねだるように落ちてきて、より先端とこすれるようになった。
 強烈な快感に鳥肌が立ち、ぶるりと震える。
 彼女の目も快感にとろけ、理性が崩れていくのが手に取るようにわかった。
「はっ、はぁ、はぁ……ねえ、答えて。ここを、こうやって、誰かにこすられたの?」
「あっ、んんっ! ないっ、こすられて……ないぃっ。トー、マス……だけぇ」
「じゃあ、やっぱり淫らな夢を見てた?」
 こんな二択を迫られたら、どちらを選ぶかなんて明白だ。
 彼女は羞恥心で全身を赤くしながら、か細い声で言った。
「……てた」
「ん?」
「夢、見てたの……」
「へぇ。夢の中の僕は、どんなふうに君を抱いてた? 優しく? それともこのくらい……激しく?」
 突きあげる間隔を短くし、より強く最奥を刺激する。
 彼女は白い喉を反らし、濁音まじりの嬌声をあげた。
「あうぅっ! はっ、ひぃっ! あぁあっ! だめっ、それぇ、だ、めぇっ!」
「達しちゃうから?」
「んっ、うん! いっちゃう、からっ! おねが……いっ」
「ふふ、可愛いお願いだね。わかった。ここをもっと、こすってほしいんだね?」
「ちが、うぅっ!」
 彼女の両脚を肩に乗せ、より結合を深くする。
 そうしながら最も敏感なところをこすり続けると、彼女の体が小刻みに震え始めた。
 締めつけられる箇所が変わって、いよいよ彼女が達しそうなのだと感じる。
「んっ、ねえ、ここは僕だけのところだって、言って」
「トーマス、だけっ! あっ、ぁあ! トーマス、だけなのっ」
「僕も……全部が、君のものだよ」
 これ以上なく濡れた中の具合を楽しみつつ、一緒に達っせるよう打ちつける速さを調整する。
 数秒後に彼女が背を反らした瞬間、奥が広がり、根本をぎゅうっと絞られた。
 激しく肉茎が擦れ、脳が焼ききれるほどの快感に息を飲んだ。
「っ! はっ……ぁっ! 愛してる……っ!」
 思いの強さを知らせるように腰を押しつけ、最奥で熱を放つ。絶頂で震える彼女を抱きしめ、幾度かゆさゆさと揺さぶった。

 やがて全てを出しきったところで、彼女が僕の胸を軽く叩いた。
「……こういう起こし方は、よくないと思う」
「怒った?」
「怒ってないけど……」
「嫌いになった?」
「なれないよ」
「良かった。僕は百回死んでも、君を嫌いになれないからね。拒まれても追いかけちゃうよ」
 言って、汗ばんだ額に軽く口づける。
 しばらく拗ねたように僕を睨んでいた彼女は、仕方ないなぁと呟きながら口づけ返してくれた。
「私はね、千回死んでも嫌いになれないよ。だからこんな起こし方をされても、怒れないの」
「はは、今日も競うの? それじゃあ僕が勝っていると証明するために、もう一回挑戦してみる?」
 未だ硬いものを奥に押しつけて囁くと、彼女はかぁっと赤くなって唇を尖らせた。
「私がこういうことで勝てないって知ってて言うのは、酷い。みんなから白の聖者様って呼ばれて微笑んでいる時は、もっと優しいのに」
「あんな偶像としての微笑みが欲しいの?」
「トーマスはそう言うけど……『光あれ』って言う時の声、すごく甘いんだよ。トーマスは自分が思ってるほど、人間を嫌ってない。あの時のことは、まだ怒ってるみたいだけど……」
「本当に嫌っていないように見える?」
「うん。だって根っこが、優しい人だもの」
「……君がそう言うなら、そうなのかもね」
「今日は随分と、あっさり認めるんだね」
「自分のことは、意外とわからないものだから。君の目が、一番正しいんじゃないかな。まあ声が甘いっていうのは、納得しかねるけど」
「本当に甘いんだってば」
「そう? じゃあ比べてみて……」
 キョトンとした彼女の耳に口づけ、真心をこめて祈りの言葉を囁いた。
「――君の人生に、光あれ」
 途端、彼女の首が茹ったように赤くなる。
 微笑みながら顔を見おろせば、彼女は口をパクパクさせ、最後にはぎゅっと目をつむった。
「ずるい! やっぱりずるい!」
「はは。ごめんね? 聖者サマらしくなくて」
 そう謝りながら、心の中で幾度も唱える。

 ――光あれ。君が幸せであるように何処までも、光あれ。
 

<了>